ーー 石橋鎮魂 ー 富山鎮魂 ーー ⑷
藐姑射(ハコヤ)の山 ーー というのは、本来は「遥かなる姑射(コヤ)の山」の意であるらしい。姑射山(コヤサン)というのは中国で仙人が住んでいるという想像上の山だそうである。
岡本かの子は、このハコヤノヤマをつぎのように使っている。
石橋のかかっている中ノ島の古松を越して奥座敷に電灯が煌々とついていた。ーーーーー 中略
牧瀬は月にキラキラさせながら魔法瓶からコップへ液汁をなみなみと注いだ。
歳子がそのコップを月にさしつけて透かしていると、牧瀬は水晶石榴のシロップです、シロップでは上品な部ですね、といった。
それから彼は不器用にパパイヤを切って小皿に載せ、レモンを絞ってかけてから匙と一緒に差し出した。藐姑射山(はこやのやま)に住むという神女の飲みそうな冷たく幽邃(ゆうすい)な匂いのするコップの液汁を飲み、情熱の甘さを植物性にしたような果肉を掬って喰べていると、歳子はこころがいよいよ楽しくなった。ーーーーー中略。
という文章になっていて、わたしには石橋と妻の絡みにも似た思いがした。